2001年10月6日

4. 冬山登山-1

ほんとは、その年の冬はスキーに行くつもりだったんですよ。

たまたま友人が家に遊びに来てて、たまたまテレビをつけると、冬山の映画だったんです。
強盗グループが盗んだお金を持って、冬山を逃げ回る、というような内容だったと思います。
アメリカ映画だったと思うんですが、厳しい冬山のシーンが、いやに良くできててね。
二人して感動して、『冬山や!冬山へ行こう!』ということになりました。

登山の経験もなかったんで、とりあえず『冬山入門』って本も読み、それなりの準備をして、12月30日に出発しました。行き先は、奈良の大峰山。

はじめは、元気もあり、いい調子だったんです。
1泊目、山のふもとでテントを張り、ラジオを付けると、ちょうど『大峰山で登山客二人が、川に転落して死亡』というニュースが流れたんですが、ちょっとドキッとしただけで、まあ、楽勝ムードでした。

翌朝早く、頂上を目指して元気に出発しました。
30分も歩くと、急に雪が深くなり、だんだん映画のイメージに近づいて来ました。
でもワクワクしたのは始めだけで、しだいにリュックがズッシリと重たくなり、疲れのため目の前に蛍光灯のようなものが何本も見えはじめました。
出発してから一人の登山者とも会わないっていうのも、妙に気になるし・・深い雪で道もよく判らないし・・
不安な気持ちで歩いていると、目の前に崖が・・。
崖の面に身体をピタリと付けて、両手を広げて蟹歩き・・足を踏み外すと、まっ逆さまに・・という、あの崖なんです。

僕はこんな時のために、ちゃんとロープを準備していました。
腰にロープをしっかりと巻き付け、ロープの束を友人に渡し、僕は恐怖の蟹歩き・・。
どれぐらいの時間が過ぎたでしょうか、あと3分の1ぐらいというところで、ロープがピーン。
友人の声が聞こえました。『あかん!ロープが足らんわ』

つづく

2001年10月9日

4. 冬山登山-2

まいったなぁ・・僕はちょっと考えました。

『もうちょっとやねんけどなぁ・・ついて来れそうか?・・戻ってもええでー』友人に尋ねると、『大丈夫やろー』とのこと。
『ほんなら、行こかー・・腰にロープ巻いてついて来いやー・・せやけど俺が向こうに着くまで落ちたらあかんぞー・・俺まで落ちるしー』
『何いうてんねん、大丈夫やー・・お前こそ落ちんなよー・・道連れはいややぞー』
なんてことを言いながら、二人はなんとか無事に崖を突破しました。

崖を通過したのが、3時頃だったと思います。
それから2時間近く歩いたでしょうか・・。
だんだん薄暗くなってきて、疲れもピークに達してきました。
テントを張ってゆっくり休みたいところなんですが、歩いても歩いても、細い道ばかりで、テントを張れるようなところが無いんです。
まいったぜ・・二人は道ばたに座り相談しました。

このまま歩いても、もうすぐ日が暮れて、状況はますます悪なるだけや。
といって、テントも張らんとここで寝るっていうのも、かなりやばい。

友人はスキー用の手袋をしてたんで、よかったんですが、僕は軍手の2枚重ねで、手袋をとると凍傷のため、指がパンパンに腫れていました。
座っていると、不思議に身体がポカポカして、すごく気持ちがいいんです。
疲れと寒さで思考能力が低下しているのか、恐怖感はありませんでした。
眠い・・たまらなく眠い・・・

つづく

2001年10月10日

4. 冬山登山-3

もうちょっと歩いてみよか・・
運がよかったら、なんとかなるかもしれへんし・・

ということで話がまとまり、二人は再び歩き始めました。

ほんの15分も歩いたでしょうか・・やっぱり運がいいんですね。
道がそこだけ山側に大きく広がり、ちょうどテントをはるのにピッタリのスペースになってるんです。

『ラッキーやなー、なんじゃこれ!・・ドラマみたいや・・ちょっと、演出が凝り過ぎとちゃうか・・』
なんて言いながら、テントを張り終えると、ちょうどあたりは真っ暗になりました。
テントの中で寝袋に入ったまま食事をとると、疲れと満腹感と暖かさで、僕はすぐに眠ってしまいました。

『おい、起きろやー』友人が夜中に起こすんですよ。
『ズルいなぁ、お前だけ幸せそうに寝やがって・・なんか楽しい夢でも見とってんやろ、無茶ニヤニヤしとったぞ』
『ん・・なんやねん、せっかくええ気持ちで寝てんのに・・』
『あかん、卑怯や。おまえだけ楽しそうにしとったら、なんか腹立つ・・』
『あかん、言うてもなぁ・・俺の夢やしなぁ・・』
しばらく友人の話しにつきあってましたが、またすぐ寝てしまいました。

翌朝になると、二人ともかなり元気を取り戻していました。凍傷の手も一晩中お腹の上で暖めていたので、だいぶよくなっていました。
さあ、頂上を目指して出発です。
いや、もうこの時は頂上なんてどうでもよかったんですけど、来た道を引き返すというのは体力的に無理があったので、とりあえず頂上へ行き、別ルートで下山しようと考えたわけですよ。

ちょうど昼ごろ、頂上に着きました。
無事に帰れるあてもなかったせいか、あまり感動に浸ることもできませんでした。
でも一応、頂上に着いた喜びは表現しました。『ヤッホー』ってね。

で、問題は下山ルートです。
必死に捜したんですが、道は今来た道以外に見当たりません。
急斜面の『沢』はあったんですが、あまりにも急で・・。

二人でしばらく検討し、結局、沢下りの方を選びました。

雪は股の下ぐらいまで積もっていて、急斜面の所々に小さな木があるんです。
とりあえず、一番手前の木に抱きつき、『セーノッ』ってかけ声とともに次の木にダイブするんです。
それを繰り返して、だんだん下に行くわけです。
はじめはちょっと恐いんですが、慣れればなかなか楽しい・・かな?
とにかく、この方法でどんどん下に降りました。
いやー、思ったより楽でね、あっという間でした。頂上からふもとまで、1時間ぐらいでしたよ。

いや、ホント、ラッキーでした。ラッキーだけでしたね。
良い子の皆さんは、絶対まねをしないでください。

後で聞いたんですけどね。例年になく雪が深くて登山客はみんな途中で引き返したんだって・・。

その時の教訓
1. 冬山には気をつけよう。
2. ロープは長めに。

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