ガンちゃんは長距離トラックの運転手をしていました。
いい人なんだけど、すごく気が荒いんです。
追い越し車線をのんびり走っているトラックなどがいると、「常識のない奴やなぁ」と呟き、物凄く呷って相手の車を止め、気が収まるまで文句を言います。もちろんケンカになることもしばしばでした。
追い越し車線をのんびり走るのもいけないとは思うんですけどね。

ある日、トラック運転手がよく利用するロードサイドの食堂に一緒に入った時のことです。
注文を聞きに来た店の人にガンちゃんは、「ざるそばとカツ丼、それから野菜いためと、天ぷらうどんも。それからギョーザ3人前。あっ、焼き飯もいっとこか。腹減ってるから急いでや！」
・・・僕は唖然としながら、豚汁付きのトンカツ定食を注文しました。
ガンちゃんは、次々に運ばれて来る料理をすごい勢いで、どんどん食べます。
「あー、喰った喰った、腹一杯や」
そこへ、ざるそばが運ばれて来たんです。
ガンちゃん、「何これ？こんなん注文してないで。見てみいや、こんだけ食べたんやで。その上、ざるそばて、どういうことや！？常識で考えたら判るやろ！そんなもん頼んでへんで！食べられるわけないやろ・・ホンマに常識のないやつやなぁ。誰かの注文と間違えたんちゃうか！？」
（いや、常識のないのはガンちゃんの方です！）

そんなガンちゃんも奥さんには弱くて、ある日僕に言うんです。
「ヨメの実家が愛媛で農家をやっとんねんけどな・・後継ぐもんがおれへんから、俺にやってくれへんかとか言うてんねんけど・・オシャレな俺に、農家なんかできるわけないやんけなぁ？」
「そんなことないで。これからは農家いうても、オシャレにいかな商売になれへんしなぁ。いつ死ぬかわからんようなトラックより、よっぽどええんとちゃうか」僕はそう応えました。
「ええこと言うなぁ、オシャレな農家か・・いや、ヨメハンの実家が困ってるいうのに知らん顔もでけへんしなぁ・・オシャレな農家か・・ええかもしれへんなぁ」

その時の教訓
1. 常識のない人ほど、常識って言葉を振りかざしてるのかもしれませんよ。
2. ガンちゃんは意外と農業に向いていたようでした。オシャレじゃないけど・・。